【はじめに】 大人の尺度を捨て、本当の「子ども視点」に立つために
私は普段、子ども向けのデジタルコンテンツや学習サービスのUXを分析しています。
子ども向けUXを考える中で、「子どもの気持ちになって考えよう」という言葉をよく目にします。しかし、正直なところ、私は幼い頃の感覚をほとんど覚えていません。手の大きさも、世界の見え方も、大人になった今の感覚に上書きされてしまっています。
そんなときに知ったのが、ITOCHU SDGs STUDIOの「こどもの視点カフェ」です。
ここでは、大人が子どもの身体感覚や世界の見え方を五感で体験できます。空間に一歩足を踏み入れると、そこは何もかもが巨大化した世界でした。
子ども向けUXを分析する立場としても、一人の大人としても多くの気づきがあったので、本記事ではその体験をUXの視点からレポートします。

【物理的UX】 2歳児から見た世界は、想像以上に大きく重かった
初めに体験したのが、2歳児のサイズ感で再現された「朝食セット」のブースです。
データによると、2歳児の手のひらは約100mm、大人の男性は約183mm。子どもにとって、食卓に並ぶ牛乳パックやマグカップは「大人の約2倍」のサイズになります。
巨大なマグカップを両手で持ったとき、かなりの「重さ」があり、持ち上げた瞬間にじわじわとくる腕の疲労感は想像以上でした。
そこで気づいたのは、子どもにとって重要なのは「小さい手でも押せること」だけではないということです。
マグカップを持つときの姿勢、両手を使うこと、重さによる疲労感――子どもは身体全体で物と向き合っています。
「使いやすさ」は画面やモノ単体ではなく、その身体の使い方ごと設計されているかで決まるのかもしれません。

【心理的UX】 VRで体感した子どもから見た「巨大な大人」
今回の体験で、最も強い衝撃を受け、ある種の「怖さ」すら感じたのが、VRを用いた子ども目線の映像体験でした。
大人の視点から見れば、子どもは「小さくて可愛い存在」ですが、子どもから見ると、大人は巨大生物のような存在として映っています。その感覚を疑似体験できるのが、このVRコンテンツでした。
VRの映像では、母親が上から覗き込むように近づき、強い口調で話しかけてきます。子どもの視点で見ると大きな圧迫感があり、本能的な怖さを感じました。
体験を通じて感じたのは、子どもにとって「視線の高さ」そのものが安心感に影響する可能性があるということです。
「教える」「指示する」だけでなく、子どもの目線に立ち、安心して関われる距離感で寄り添うことが重要なのではないかと思いました。

【時間的UX】 子どもは「時間」ではなく「できごと」で動いている
展示の中で、グラフィックやUI設計において最も深く考えさせられたのが、「こどもの時間は『できごと』の数で計られる」ということです。
時計の概念をまだ完全に理解していない子どもにとって、大人の「30分」は、しゃぼん玉、すべり台、アリの観察といった「新鮮な体験」の連続で構成されています。だからこそ、大人側の論理で「あと5分ね」「早くして」と言っても、子どもにとっては直感的に響きません。
そこで有効なのが、「あと1回すべり台をやったら終わりね」「ママとどっちが早く靴を履けるか競争だよ」といった、子どもが直感的に次の行動を理解できるアプローチです。

【まとめ】 これからの制作に活かす「子ども視点」
体験の締めくくりには、小学生が感じているランドセルの重さを大人比率に換算した「巨大ランドセル」も背負ってみました。
思わず笑ってしまう見た目とは裏腹に、後ろにひっくり返りそうになるほどの負荷があり、子どもたちが日常的に背負っているものの重さを改めて実感しました。

今回の体験を通して印象的だったのは、子ども向けUXを考えるうえで重要なのは、単に文字を大きくしたり、ボタンを押しやすくしたりすることではないということです。
子どもたちは、大人とは異なる身体の大きさで世界に触れ、異なる心理的距離感の中で人と関わり、そして「時間」ではなく「できごと」を基準に行動しています。
だからこそ、子ども向けのサービスやコンテンツを設計する際には、大人の感覚をそのまま当てはめるのではなく、「子どもにはどう見えているのか」を想像し続けることが欠かせないのだと感じました。
また、カフェで購入したクッキーには、素敵なメッセージが添えられていました。


身体の大きさ、心理的な感じ方、時間感覚――今回の体験を通じて学んだのは、子どもは「未完成な大人」ではなく、大人とは異なる世界の捉え方を持つ存在だということです。
一人ひとり異なる見方や感じ方を持つ存在として理解する。それこそが、このイベント全体を通して伝えられていたメッセージなのかもしれません。
今回得た学びを、今後の「知育UXラボ」の活動や子ども向けUXの考察に活かしていきたいと思います。

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